第3回 海女さんの話


 

昔、修行僧が港町を歩いていました。

 

すると、雨が降ってきました。

 

修行僧は長い間修行して衣もボロボロで、傘も持ってなくて、「でもまあ、これくらいの雨なら、雨宿りしなくても良いかな」とそのまま歩いていました。

 

すると港町でしたので、前の方から「あまさん」の集団が歩いてきました。あまさんとは海に潜って魚を採る、昔、海女ちゃんというドラマがありましたが、その海女さんです。

 

海女さんたちは今から海に潜ろう、という格好をして「傘をさして」歩いてきました

 

それを見て修行僧は思いました。

 

あれ?この海女さんたちはこれから海に潜る格好をして、海に潜って、どうせ、びしょびしょに濡れてしまうのに、どうして今、傘をさして濡れないようにしているのだろう?

 

そう疑問に思った修行僧は海女さんたちに尋ねました。

 

「あなたたちは、これから海に潜ろうという格好をして、海に潜って、どうせ、びしょびしょに濡れてしまうのに、どうして今、傘をさして濡れないようにしているのですか?」

 

それを聞いて海女さんたちが答えたのは、

 

「私たちの体は、自分たちの物ではなく、天からの借り物である。借り物であるからには大切に扱わなければならない。例え今から海に潜って濡らしてしまうとしても、この雨に濡らすのは申し訳ない

 

と、そう答えました。

 

それを聞いて修行僧は気づきました。

 

ああ、自分は今まで自分の体を自分の物だと勘違いしていたが、全然そんなコトはなかったんだ。借り物だったんだ。自分の物なら自分の好きなように使えるはず。老いるコトもなく、病気になるコトもなく、死ぬコトもなく。好きなように、自由自在に使えるはず。それができないと言うことは、やはりこの体は借り物なんだ。

 

そういう意味では、この世界には自分の物というものは、なに一つないのですが、修行僧はそのことに気づいたのです。

 

自分は今まで修行ばかりして、体を痛め付けてばかりいたけど、この体が借り物だということを理解して、大切に、感謝しながら使わなければならないのだ。

 

雨が降ったら傘をさす。雨宿りをする。

 

暑くなってきたら涼しい格好をする。

寒くなってきたら暖かい格好をする。

 

病気になったら病院に行く。

 

 きちんと休む。

 

そうやって自分の体を、大切に、感謝しながら使うべきなのだ、と修行僧は気づいたのです。

 

皆さんもいずれ体を返すときが来るでしょう。

 

その時まで、大切に、感謝しながら…もちろん、さんざん使い込んで良いので、最期は「ありがとうございました」と、言って返せるようになっていただければと思います。

 

 

 

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